大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1169号 判決 1970年5月20日
原告 中村源治
右訴訟代理人弁護士 長尾悟
被告 ヨシ子こと 立岡ヨシヘ
右訴訟代理人弁護士 木村保男
同 的場悠紀
同 坂本正寿
右訴訟復代理人弁護士 川村俊雄
主文
当庁昭和四二年(手ワ)第三一一五号事件の手形判決を取消す。
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
<全部省略>
理由
一、原告が、額面金八〇万円、満期昭和四一年一二月二〇日、支払地・振出地とも大阪市、支払場所株式会社三和銀行天下茶屋支店、振出日同年九月二〇日、振出人被告、受取人・第一裏書人(白地式裏書)由留木建設工業株式会社なる記載のある約束手形一通(以下本件手形と称する)を所持していることについては、被告において明らかに争わないから、自白したものとみなすべきである。
二、そして、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一)被告は、内縁の夫真藤登志雄と同棲し、昭和四一年当時同人が経営する洋装店において、仕立注文取りの仕事に従事していた。当時被告は、株式会社三和銀行天下茶屋支店と当座預金取引があった。
(二)被告と真藤登志雄は、被告振出の約束手形により商売上の金策をすることにし、真藤登志雄が同年九月初旬頃知り合いの計理士のあつ旋により融資をうるべく、前記のとおりに支払地と支払場所とが印刷してある手形用紙二枚に、いずれも額面金一二万円、その他各欄に所要事項を記載し、また振出人欄に被告の氏名を記載して、取引銀行に届出の被告の印鑑を押捺して手形二通を作成し、ほかに予備として、前同様に印刷してある本件手形用紙の満期日・振出地及び振出日の各欄に前記一のとおり記載し、振出人欄に住所及び「ルビー洋装店立岡ヨシ子」と記載した。真藤登志雄は、本件手形については、金策のめどがついたときに、その余の所要事項を補充し、被告の銀行届出印を押捺したうえで、流通に置くつもりであった。真藤登志雄は、これら三通の手形をもって該計理士の事務所へ赴いたが、目的を達することができないまま所持しているうち、その頃いずれも遺失した。
(三)原告は、同年九月中旬頃かねて友人関係にあり、また金融の便を図ってやっていた由留木建設工業株式会社の代表者由留木貞夫から、前記一のとおり補充してある本件手形を示されて、出入りの下請業者より受取った手形であるが、地下鉄工事のため今すぐ現金四五万円が必要なので、これを担保に融通して欲しい、との申込を受けた。その際由留木は、この手形が落ちたときは、差額残を返してくれと言っていた。しかし由留木は、当時原告の紹介により農協より融資をうけていたところ、その利息を払っておらず、農協より原告に対し紹介者としての責任を追求して来ていた矢先であったから、原告の勧めにより差額残を農協の支払に当てることを約し、原告は、同人に金四五万円を貸与し、本件手形を白地式裏書により取得した。
以上の事実を認めることができ、この認定を動かすに足る証拠はない。
三、右認定事実によれば、本件手形は、いわゆる未完成手形であって、補充権を有しない原被告以外の何者かにより未完成部分が補充され、また被告の意思に反して流通に置かれ、結局原告の手中に帰するに至ったものと推認できる。
四、そうだとすれば振出人とされている被告において、本件手形を振出していないのであるから、手形上の責任を負うべきいわれはなく、原告の本訴請求は理由がない。
五、よって原告の本訴請求を棄却する。<以下省略>。
(裁判官 石田真)